借り上げ社宅を導入する際、税務上の「賃貸料相当額」(記事1参照)ばかりに目が行きがちだが、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の計算では、税務とはまったく別の基準が使われるという点は見落とされやすい。本記事ではこの2つの基準の違いと、標準報酬月額への影響を整理する。
税務上の基準と社会保険上の基準は別物
所得税の給与課税を判定する「賃貸料相当額」は、固定資産税課税標準額を基礎に計算する(記事1)。これに対し、社会保険料の算定基礎となる標準報酬月額に社宅を現物給与として算入する際は、厚生労働大臣が定める「現物給与の価額」を用いる(健康保険法43条、健康保険法46条、厚生年金保険法施行令等)。これは「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」(平成24年厚生労働省告示第36号)として告示されており、都道府県ごとに定められた金額を基礎とする、税務とは独立した制度である。
現行制度では、住宅で支払われる報酬等に係る現物給与の価額は都道府県ごとの「畳1畳当たりの価額」によって算出される。ただし、令和8年3月17日付の官報公布(令和8年厚生労働省告示第94号)により、住宅の現物給与価額の算定単位は令和8年10月1日から「畳1畳」から「住宅の総面積1平方メートル」に変更される予定であり、社宅を運用する企業は実務上の再確認が必要になる。
標準報酬月額への算入の仕組み
- 会社が住宅を無償または低額で貸与している場合、都道府県ごとの現物給与価額(旧基準は対象となる居住部分の畳数、新基準は住宅の総面積1㎡当たりの単価)をそれぞれ対応する面積に乗じて「住宅の利益の額」を算出する
- 本人から実際に徴収している家賃額を、この「住宅の利益の額」から差し引いた残額が、報酬(現物給与)として標準報酬月額の算定基礎に加算される
- 本人からの徴収額が現物給与価額以上であれば、現物給与としての加算は生じない
現金の住宅手当との違い
現金で支給する住宅手当は、その全額が「通貨による報酬」として標準報酬月額にそのまま算入される。これに対し、社宅方式であれば現物給与価額という別基準での評価となり、都市部の高額賃料物件では、税務上の賃貸料相当額よりも社会保険上の現物給与価額の方が低く出るケースも多いため、結果として標準報酬月額への影響を抑えられる可能性がある。これが、住宅手当を社宅方式に切り替えることで社会保険料の会社・本人双方の負担を抑制できるとされる理由である。
実務上の留意点
- 現物給与価額は都道府県ごとに毎年度改定されるため、算定基礎届(毎年7月1日現在の標準報酬月額を決定する届出)や月額変更届の提出時には最新の告示額を確認する必要がある
- 本社が一括適用の承認を受けている場合でも、現物給与の価額は各従業員の勤務地の都道府県の価額が適用されるのが原則であり、本社所在地の価額を一律適用するミスが起きやすい
- 令和8年10月の畳→平方メートルへの単位変更は、既存の社宅運用における現物給与相当額の再計算を要する可能性があるため、対象物件がある企業は改正内容を確認しておきたい
Edo Partnersの実務視点:社内の合意書と給与データをつなぐ
社宅規程の制定や従業員との本人負担・賃料減額の合意を実際に扱うと、契約書に記載された家賃と、給与担当者が使う「本人から毎月徴収する額」が混ざりやすい。Edo Partnersの実務では、物件ごとに所在地、対象面積、会社の対貸主家賃、本人負担額、適用開始日を一枚で管理する設計が役立つ。人事が合意内容を保管し、給与担当は税務用と社会保険用の二つの基準を別々に確認する。2026年10月からの面積単位変更時には、貸主側の図面・面積資料と給与システムの入力欄が一致するか再点検したい。
よくある質問(Q&A)
Q1. 税務上の「賃貸料相当額」を満額徴収していれば、社会保険料の計算でも安心ですか?
必ずしもそうとは限らない。税務と社会保険は算定の基礎となる単価も計算方法も異なる別制度であるため、税務上の賃貸料相当額を満額徴収していても、社会保険上の現物給与価額の基準では徴収額が不足していると判定される可能性が理論上はある(その逆のケースも起こり得る)。両者は連動していない点を踏まえ、必要に応じて両方の基準で試算しておくことが望ましい。
Q2. 現物給与価額はどこで確認できますか?
日本年金機構および厚生労働省が、告示改正のたびに都道府県別の一覧表を公表している。給与計算・社会保険実務の担当部署で最新の告示内容を確認する必要がある。
Q3. 役員が社宅に住んでいる場合も同じ扱いですか?
役員も厚生年金保険・健康保険の被保険者となるため、現物給与としての取り扱いの基本的な枠組みは従業員と同様である。ただし、標準報酬月額には上限等級があるため、高額な社宅であっても青天井に保険料が増えるわけではない点は留意したい。
Q4. 令和8年10月の単位変更(畳→平方メートル)で、既存の社宅の扱いは自動的に変わりますか?
告示の適用日以降、新しい算定単位に基づいた価額表が適用されることになる。自動的に金額が反映されるわけではなく、給与計算担当者側で新しい価額表を確認し、必要に応じて標準報酬月額の見直し(随時改定の要否含む)を検討する必要がある。
参照法令・告示
- 健康保険法43条、46条
- 「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」(平成24年厚生労働省告示第36号)
- 「厚生労働大臣が定める現物給与の価額の一部を改正する件」(令和8年厚生労働省告示第94号、令和8年3月17日公布、住宅分は同年10月1日適用)
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の社会保険料算定や標準報酬月額の判断を保証するものではありません。実際の適用にあたっては、社会保険労務士や年金事務所にご相談のうえご確認ください。また、本記事の内容は執筆時点の法令・告示に基づくものであり、将来の改正等により内容が変更となる場合があります。
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